熟年の性を考える

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研究員  岩淵 成子
 
寅さんには美人のスチュワーデスさんがいましたが・・・
 

 

 NHK BSで「寅さんシリーズ後半」が、始まりました。
 第1回は「寅次郎ハイビスカスの花」でした。マドンナは、浅丘ルリ子さん扮するリリーさんです。沖縄で、病気になったリリーさんを看病しようと、怖くて乗れない飛行機に、無理矢理乗って、那覇空港に降り立つのが、前半の見せ場のひとつです。乗らないと、空港で柱にしがみつく寅さんが、沖縄に行けたのは、美人のスチュワーデスさんが「私たちは、毎日乗っているんですよ。ご一緒しましょう」と、誘ってくれたからです。美人によわい寅さんなら、さもありなんと納得できる、うまい脚本です。

 このシーンを見ながら、区役所の食堂で会った、老婦人のことを思い出しました。
 用事を済ませ、安さが取り柄の所内食堂で、遅い昼食を取ったときのことです。家で昼食はすませ、デザートのクリームあんみつだけを、クーラーの効いた、食堂で楽しんでいる、80過ぎと思われるふたり連れと同席し、何となく四方山話が始まりました。外では、デザートだけにしておくという、つましい生活のようですが、身なりや言葉遣いから、中流以上の生活をおくってきた方々に、見えました。

 旅行に行ったという話になり、ふたりのうちの一人は、外国旅行も色々行ったそうですが、もう一人は、国内旅行だけしか行ったことがない、と言われるのです。理由を聞いてみると、飛行機に乗れなかったからなのだそうです。高所恐怖症ではなく、あんな重いものが空を飛ぶなんて・・・という類の、漠然とした恐怖心のようです。そのため、夫はどんどん海外旅行に行ったけれど、自分は一度も行かずじまいだった。と寂しそうに言われるので、寅さんの話をし、励ましの意味も込めて「だからまだ遅くありませんよ。お連れ合いに、しっかり抱いてもらえば、乗れますよ」と言ってしまったのです。すると、「それはもうできません」との答え。連れ合いは、既に無くなってしまわれていたのでした。

 大正生まれの男にとっての妻は、「怖いことはない。俺がしっかり抱きしめていてやるから。絶対大丈夫だから一緒に行こう。おまえが一緒に行けないんじゃ、旅行する気にならないよ」と、言うような存在ではなかったのでしょうか。妻は行けないんだから、自分は一人で行く。それが当たり前。と思っていたのでしょう。

 妻の悲しみになど、思い及ぶこともない夫。それで当たり前と、死ぬまで夫に尽くしたであろう妻。どうということはない、ありきたりの日本の風景。しかし、それで、本当には満足していない、、としか見えない妻の顔が、私の前にはありました。眉間の深いしわと、うつむき加減の悲しげな目つき。子どもや孫達に囲まれて、穏やかな日々を過ごしていて、幸せだという言葉とは、違うメッセージを発していました。海外旅行に象徴される、夫婦の関係が見えたような気がしました。

 抱きしめられ、手をつなぎ、スキンシップを充分取ってきた妻は、コロコロと、はじけるような顔をしています。しかし、それが充分でない妻は、眉根にしわが寄ったような、険しく、トゲトゲしているような感じがあります。若いうちは、化粧や「若さ」でごまかしがきいていますから、あまり分かりませんが、年取れば取るほど、はっきりしてくるように、思えます。

 自分たちは、どちらだろうかと、振り返ってみてください。眉根にしわの関係だったら、修復が必要です。この先20年、30年、まだまだ長い年月を、ともにするのですから。

 

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