| NHK学園で「人間と性」講座の専任講師をしていたころ、小学校教師Kさんから、一年生たちに「キスしたことがある?」と聞かれたときのお便りをいただきました。
Kさんが「あるわよ」と答えたら子どもたちは「えー、やっぱり」とか「エッチ!」なんていう声も飛び出しました。そこで逆に「みんなはキスしたり、されたりしたことないの?」と聞くと、「ない、ない」と強く首をふる子やら、恥ずかしそうに隠れる子やら。
そんな子たちにKさんが「先生ね、いつも朝出掛ける時に『いってきます。げんきでね』って、子どもたちにチュチュとほっぺにするんだよ」と言うと、拍子抜けの感じだったそうです。ちょうどタイミングよく始業のチャイムがなってそれきりだったのですが、答え方がよかったのか、Kさんは考えてしまったということでした。
子どもたちは、大人の女としてのキスを尋ねたのに、Kさんは母親の場合にすり替えてその場を切り抜けたようです。実は私にも、キスというと思い浮かぶ新任時代の苦い体験があります。
中学一年の国語の授業でオスカー・ワイルドの童話「幸福の王子」を学習したときのこと。この童話のクライマックスは、主人公の銅像の王子とツバメがキスする場面です。きっと生徒たちは感動に心ふるわせているだろう…と、思い込んでいたのですが、さにあらず。「キスってどうやるんですか」「先生、やったことあるの」などなど、待ってましたとばかりの質問攻め。当時の私は「静かにしなさい」と大声を張り上げるのが精いっぱいでした。
いまの私なら、こう言うでしょう。
「あっ、そうか、わかった。M君は、誰か好きな人ができて、それでキスの仕方を研究しようとしているのね。でもね、ファーストキスは自分の歴史に残る大事な記念碑よ。安売りしないで大事にしたほうがいいわ」
高校時代に私が好きだった北原白秋の歌も黒板に書いてみたいとも思います。
ひやしんす 薄むらさきに 咲きにけり はじめてキスをおぼえそめし日
これは私が高校時代の卒業アルバムに自分で書き添えた歌です。これから体験するであろうキスへの予感と期待だったのでしょう。そんな自分の経験も子どもたちには参考になるのではと思っています。
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